メビウスの輪のような効果
ショッピングモールのカフェについては前章で説明した。ここでは、映画内における「大変興味のある関係性」について考察しよう。映画の前半部分、ヘルゲとアナがカフェでコーヒーを飲んでいるとき、アナが、このカフェに来るのは初めてであることを伝えたのに対し、ヘルゲは「(以前)お客にカメラを見せていて、ファインダー越しに――君の姿が見えたと思ってシャッターを切った」と言っている。映画の後半部分において、まさにその状況、アナ(とアナの想像上のアンデシュ)はカフェで座ってお茶を飲んでいて、ヘルゲが接客中、カメラのファインダー越しにアナを見かける、というシーンを観客は観ることとなる。
これは意図的に時間とシーンの構成をねじれた形でつなげることで、メビウスの輪のような不思議な感覚を作り出す演出であり、アナの混乱した世界を観客に体感させているのである。さらに後のシーンで、ヘルゲはアンデシュと友達になる“近所の少年”を同じカフェで見かけている(このときヘルゲは勤務中で、そばにお客はいない)。
ヘルゲとアナがコーヒーを飲んでいるときにも、カメラが重要な役割をしている。そこでもシーンの複製化、映画における混乱が起きる。2人は互いの写真を撮りあい、ヘルゲの顔写真をアナは自宅の冷蔵庫の扉に貼る。その直後、アンデシュが自分の部屋に元夫の写真を貼ったことに気付き、アナは衝撃を受ける。おそらく、このアンデシュの行動は、精神を病んでいるアナの恐怖を表したもので、それは善良そうなヘルゲも実は前夫同様の悪い男だ、ということが将来わかってくるに違いない、という恐怖である。